世界初のジャズ・ピアノ教本は誰によって書かれた、どのような本か?
と、その前に楽譜についての話グーテンベルグの活版印刷技術は音楽家にも多くの影響を与えた。それは楽譜を販売することが音楽家にとって生活基盤を支える重要な仕事になったからである。特に19世紀末、ニューヨーク・ブロードウエイ近くのティンパンアレーでは多くの音楽出版社が軒を連ねていたと言われる。Jazzにおける「Sheet Music」もこのティンパン・アレイを中心に多く出版されていたに違いない。だからこそ、ドビッシーやストラビンスキー、ラベルと言ったヨーロッパの作曲家たちが皆、ジャズに影響を受けた作品を創作し、それがjazzが世界的に広まるきっかけにもなったことだろう。ただし、蓄音機の発達によってレコード文化が盛んになると、楽譜出版社は衰退していく。 もっとも今日音楽出版社といえば楽譜を出版しているところは少なく、そのほとんどは「原盤制作」や「出版権の管理」と言う権利ビジネスの組織となっている。 |
前置きが長くなったが、Jazzの「Sheet Music」はティンパンアレイでは盛んに発行されていても、ジャズ・ピアノ教本となると確固たる証拠はないが、以下がもっとも古いのではないだろうか。 |
『Vincent Lopez Modern Piano Method Book I』 (Vincent Lopez /M M COLE PUBLISHING CO)1933年
著者のVincent Lopezはピアニストでバンドリーダー、1917年に自らの楽団を立ち上げ、1921年ラジオ番組を通じて人気が高まり、1940年代までアメリカで最も人気のあるバンドリーダーとして活躍した。彼の楽団からは、アーティ・ショウ、トミー・ドーシー、グレン・ミラーらが在籍していた。 さて内容をざっと紹介すると、このジャズピアノ教本は全部で4巻まであり、本書は第1巻。音楽の五線紙の説明から入るなど音楽の基本原理から始まり、ピアノの鍵盤が五線紙ではどのポジションに対応しているか、また手の写真入りでフィンガリングの説明を行なっている。 P13からは主要三和音の左右でのポジショニング、転回形の説明。P18は「Old Black Joe」を例に実際の演奏のリズムパターンが示されている。P19からはP63までは各Keyごとに同内容の説明がされている。使用するスケール、使われるコードを写真入りのフィンガーリングで説明、両手のポジショニング、リズムパターン、そして、実際の楽曲例(Gのkeyなら『Mass in the Cold Ground』、Emのkeyなら『Gypsy lament』など)を示している。 最後のP64にはMajor、Minor、Seventh各コードによる左手のパターン(ラグタイム以来演奏されている、ルートと三和音、5thと三和音を交互に「ズン・チャ」とジャンプさせる)が36掲載されている。スイング時代のジャズ・ピアノの基礎であると同時にピアノの基礎練習の教本といっても良いだろう。
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